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高知地方裁判所 昭和31年(行)7号 判決 1961年1月30日

原告 峯川重雄

被告 大豊村村長

主文

被告が原告に対して、昭和三一年七月二三日づけの徴税令書によつてなした、木材引取税金額四七四、〇〇〇円の賦課処分を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求原因として、次のとおり述べた。

一、被告は、昭和三一年七月二三日原告に対し、訴外峯川梅一と高知県長岡郡西豊永村(昭和三〇年三月三一日同郡大豊村に合併)との間になされた、同村所有の佐賀山立木(以下本件立木という)の売買に基く引取に関し、村税徴税令書によつて、木材引取税金額四七四、〇〇〇円の納付を命じた。

二、ところで、被告の原告に対する右賦課処分は次の理由によつて違法である。

(一)  本件立木にたいする売買契約は、昭和二七年六月九日(第一回契約)、同二八年三月二三日(第二回契約)、同年八月九日(第三回契約)の三回にわたつてなされ、右契約に基いて引取られた総石数は一五、八八四石四斗四升であるが、右売買契約に基く伐採木の引取者は、いずれも訴外峯川梅一である。従つて同訴外人に対して木材引取税を賦課するのはともかく、原告に対してなされた本件賦課処分は違法である。

(二)  次に地方税法第五五一条第一項による木材引取税は、立木の買受人において、立木を買受け、その所有権を取得したのち買受人において立木を自由に伐採造材して引取る場合、即ち引取前に立木所有権を買主が取得している場合、当該引取行為に対して課税されるもので伐採木の引取によつて買主がその所有権を取得する反面、その引渡が売主にとつては売買義務履行の手段にあたる場合は、右法律の課税対象たる引取行為に含まれないというべきである。本件立木の引取は、右に述べた売買義務履行として、原告が引取りその所有権を取得したものであるから、この引取に対してなされた本件賦課処分は違法である。

(三)  次に本件立木の各売買契約においては、時価に引取税を包含した金額を石当りの代金(第一回契約については石当り金三五〇円、第二回契約については石当り金五二〇円、第三回契約については石当り一、三〇〇円)とし、かつ立木代金を前払いする約定がなされていた。そして西豊永村村長都築良宏は右の事情を考慮にいれ、各契約(第一回契約は昭和二七年六月九日、第二回契約は昭和二八年三月二三日、第三回契約は同年八月九日)の都度、当該契約に基く立木引取に対し、木材引取税を賦課をしない旨の特約をした。右事情は地方税法第五六三条に規定する特別事情に該当し、かつこれに対し村長から課税免除の意思表示がなされたのであるから、原告に本件引取税の納付義務はない。仮に右事情が地方税法第五六三条の免除事由に当らないとしても、同村長は右課税免除の特約により、原告に賦課処分を為すべきでなく、これに反してなされた本件賦課処分は違法というべきである。もつとも右木材引取税免除に関する特約が、西豊永村村議会の議決によつて承認されたかどうかは知らないが、議会の議決は単に議会内部の問題であり、一旦村長との間に免除する旨の特約がなされた以上、当然効力を生じ、議決の有無は右特約の効力になんらの影響を及ぼさないものというべきである。

(四)  本件立木の寸検、引渡しは、昭和二八年四月七日から昭和二九年一二月二八日までの間に前後四回にわたつてなされた。そして、西豊永村村長は右期間内に遅滞なく、かつ容易に申告納付又は証紙徴収による徴税をなしえたのにかかわらず、これを怠り、昭和三一年七月、町村合併により発足した被告村長から本件引取税を賦課したもので、このように長期間を経過してからなされた賦課処分は原告に不測の損害を与えるものとして条理上違法である。

(五)  また本件木材引取税の徴収については、申告納付又は証紙徴収による方法が定められているところ、本件賦課処分はこれらの方法によらず、徴税令書によつてなされた。このように定められた賦課方法によらずになされた本件賦課処分は違法である。仮に違法でないとしても徴税令書には地方税法第一条第六号所定の事項を記載すべきところ、本件徴税令書にはその記載を欠いているから手続上違法な賦課処分である。

三、原告は、本件徴税令書に基く木材引取税の賦課処分に対し、昭和三一年八月八日被告に異議申立をしたところ、同年九月六日異議申立を棄却する旨の決定の送達を受けた。よつて本件賦課処分の取消を求めるため本訴に及んだ。

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する旨の判決を求め、請求原因に対する答弁及び主張として次のとおり述べた。

一、本件立木について、原告主張の日時に、合計三回にわたり売買契約がなされ、同契約に基いて引渡された伐採木が合計一五、八八四石四斗余であつたこと、本件立木の所有権移転時期が、伐採木を引渡す時であつたこと、ならびに請求原因第三項の事実はいずれも認める。本件立木の引取者が訴外峯川梅一であること、各契約における立木の石当り単価が時価以上のものであつたこと、西豊永村村長であつた都築良宏が原告に対し本件引取税を賦課しない旨の特約をしたこと、はいずれも否認する。

二、本件木材の引取者は原告であり、かつ、本件引取税の賦課がなされたのは、本件立木売買契約のうち、原告との間になされた第一回と第三回契約に基いて、原告に引取られた伐採木一五、八八四石四斗余りであり、第二回契約に基いて引渡された伐採木はないから、同契約に基く引取は本件賦課処分の対象となつていない。また原告主張のように、本件引取税に関し、原告と西豊永村村長との間に引取税を賦課しない旨の特約があつたとしても、右特約を承認する旨の西豊永村村議会の議決はなされていない。従つて右特約はなんらの効力も生じていない。また本件木材引取税の賦課方法について、被告が徴税令書によつたのは原告から申告納付の手続がなかつたからであり、また地方税法第一条第六号に規定する徴税令書の内容は、単に説明的規定に過ぎず、同号において徴税令書の必要的記載事項を定めたものではない。従つて手続上なんら違法はない。

また本件木材引取税額は、原告の引取石数一五、八八四石四斗余りの内一五、八〇〇〇石に対し、平均単価六〇〇円を乗じ、更に地方税の認める税率一〇〇分の五を乗じて算出したもので税額算出に関し違法はない。

(証拠関係省略)

理由

被告が、昭和三一年七月二三日原告に対し、高知県長岡郡西豊永村(昭和三〇年三月三一日同郡大豊村に合併)所有の佐賀山立木売買契約に基く伐採木の引取に関し、村税徴税令書によつて、木材引取税金額四七四、〇〇〇円の賦課処分をなしたこと、之に対し原告は昭和三一年八月八日被告に対し異議申立をしたところ同年九月六日右申立棄却の決定があり、その頃原告においてその送達を受けたことは右佐賀山立木売買契約は、昭和二七年六月九日(第一回契約)、同二八年三月二三日(第二回契約)、同年八月九日(第三回契約)の三回にわたつてなされ、同契約に基く引渡総石数が一五、八八四石四斗余りであること、同契約による伐採木所有権の移転時期は、伐採木の引渡しがなされる時であること、は当事者間に争いがない。

そこで、まず、本件賦課処分の対象となつた佐賀山立木の引取者について検討する。原告は、本件木材の引取者は、訴外峯川梅一である旨主張するが、第一回及び第三回立木売買契約に基く伐採木の引取に関しては、原告峯川重雄の尋問の結果は信用できず、ほかに右主張を認めるに足る証拠はない。かえつて成立に争いのない甲第五号証及び同第七号証、証人小笠原薫光(第一、二回)、同相原甚七郎、同都築良宏の各証言を合せ考えると、第一回及び第三回立木売買契約に基く伐採木の引取者は原告であつたことが認められる。次に第二回立木売買契約の引取については、まず同契約に基いて伐採木の引渡しがなされたかどうかの点について争いがあるので検討するに、成立に争いのない甲第六号証及び、原告峯川重雄の尋問の結果、ならびに同人の尋問の結果により成立したものと認められる甲第一一号証によれば、第二回契約の契約石数は三、〇〇〇石であり、同契約に基いて引渡がなされたのは、末口三寸以上のもの二、九三七石、末口二寸五分以下のもの六三石で合計三、〇〇〇石(なお第一回契約に基く引渡石数一二、〇〇〇石、第三回契約に基く引渡石数八八四石四斗四升)であつたことが認められる。右認定に反する証人小笠原薫光(第一、二回)の証言及び被告三谷泉水の尋問の結果は直ちに信用できず、また被告三谷泉水の供述により成立したものと認められる乙第五号証の記載によれば第二回契約においては、期間中(伐採木引取期間を指称するものと考えられる。)受渡しがない旨の記載があるが、前記甲第六号証によれば、右第二回契約の趣旨は、契約石数三、〇〇〇石を伐採対象とし、伐採期間にかかわらず、右契約石数に達するまでの引渡木材を同契約に基く引渡石数とするものであると認められるから、右記載によつて、直ちに前記認定を覆すことはできず、ほかに前記認定を動かすに足る証拠はない。そして、証人小笠原薫光(第一、二回)の証言及び被告三谷泉水の尋問の果結によれば、右第二回契約に基く伐採木の取引者は原告であつたものと認められる。右認定に反する証人都築良宏の証言及び原告本人尋問の結果は信用できない。もつとも甲第六号証(成立につき争いなし)によれば、第二回契約の買主は峯川梅一であつたことが認められるが右梅一は原告の父であり、共同して事業をしていたことなどからして買主であることから直ちにこれを引取者と認めることはできず、ほかに右認定を動かすに足る証拠はない。従つて原告が本件立木の引取者でない旨の主張は採用できない(なお各契約に基く引渡石数の平均単価については後記認定のとおり。)。

次に原告は、本件木材の引取が、地方税法第五五一条第一項の引取に該当しない旨主張するが、同条に規定する木材引取税は、当該木材の引取者が引取以前に当該木材の所有権を取得したか、或は木材を引取る(売主からすれば売渡義務の履行となる)ことによつて、当該木材の所有権を取得するかを問わず、木材の現実の引取者を納税義務者として賦課されるものであると考えられるから、原告の主張は採用できない。

次に原告は、本件木材引取税については、地方税法第五六三条に規定された特別事情があり、この事情に基いて、西豊永村村長から、本件引取税を賦課しない旨の特約がなされた旨主張するが、仮に主張のような事情が考慮され主張のような特約がなされたとしても、右引取税免除に関しては、地方税法第五六三条において、議会の議決を経ることを必要とする旨の規定があり、このように議会の議決を経ることを必要とする事項は、議決を経て始めて効力を生ずるもので、単に議決の執行機関たる村長が議会の議決を経ずに為した行為は法律上なんらの効力も生じないと解せられる。そしてこの点に関するなんらの立証もないから、結局原告の主張は失当である。また右木材引取税の納税義務は、前記地方税法第五六三条等の法令に基かずに(前例でいえば免除する特別事情もないのに)減免をなしえないものと考えられるから、法令に基かずに西豊永村村長と原告との間に免除の特約がなされたとしても、このような特約はなんら法律上の効力は生じないものというべきである。この点に関する原告の主張も失当である。

次に原告は、本件賦課処分の時期が遅延したことを理由にその違法を主張するところ、甲第一一号証(原告峯川重雄の尋問の結果によつて成立したものと認められる)、及び乙第五号証(被告三谷泉水の尋問の結果によつて成立したものと認められる)によれば、本件立木の伐採引取りは、昭和二八年四月七日頃から、同二九年一二月末頃までの間になされたものと認められる。従つて特別な事情のない限り、本件立木全部の引取りが終了した昭和三〇年に本件引取税の賦課徴収をなしえたものと考えられる。しかしながら、右期間を徒過して昭和三一年七月になつて、本件賦課処分がなされたからといつて、その納税義務が消滅するものではないし、またその遅延を理由に本件賦課処分が条理上違法であると認めることもできない。

次に原告は、本件引取税については申告納付又は証紙徴収による方法が定められていたから、この方法以外による賦課処分は違法である旨主張するが、地方税法第一条に規定された他の賦課方法による賦課処分が違法であるということはできず、また地方税法第一条第六号に規定される徴税令書の記載内容は全部が不可欠の有効要件とは解し得ない。そして徴税令書に基く賦課としては少くとも徴税令書たること、納税者の住所氏名、税種目、税額、納期、納付額、納付の場所等の要件の記載があれば、徴税令書としての必要事項は具備しているものと解せられるところ、甲第一号証及び乙第六号証(いずれも成立につき争いなし)によれば、右の必要事項を具備していること明らかであるから、その余の記載事項がないことを以て直ちに賦課方法が違法であると認めることはできない。この点に関する主張も理由がない。

ところで、本件引取税額は伐採木価額を石当り平均単価六〇〇円とし、これを基礎として算出されたものであることは、被告主張により明らかである。しかし成立に争いのない甲第五号証ないし第七号証及び原告峯川重雄の尋問の結果によつて成立したと認められる甲第一一号証によれば、各契約に基く引取石数及びその価額は別表の通りで、総引取石数一五、八八四石四斗四升に対する価額は六、八八一、九六八円であつた(右認定に反する証人小笠原薫光の証言、被告三谷泉水の尋問の結果、ならびに乙第五号証を信用しないことは、前記伐採木の引取者の判断において述べたとおり。)こと明らかであり、右総引取石数で引取価額を除した石当りの平均単価は四三三円余りとなる。従つて、被告のなした本件木材引取税は、その税額決定の課税標準たる素材の価額算定方法において違法があるものというべく、これを基礎とした本件木材引取税の賦課処分は取消さるべきである。

以上のとおり原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 合田得太郎 島崎三郎 加藤義則)

(別表省略)

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